The web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル 63
【太ることと大腸癌】
大腸癌の手術をしていると、何故か、大腸の手術をした後に太る人が多いのに気がつきます。また、肝臓に脂肪が沈着する人が増えるのにも気がつきます。それは、大腸癌を多く手術している外科医なら、なんとなく、気がついていたことです。
だから、大腸癌をした後は、太りすぎや食べすぎにならないように、外来で指導しています。
しかし、うかつにも、わたしは気がつかなかったのですが、そもそも、太った人に大腸癌の方が多いのだそうです。
これは、トピックスとして、書いておきましょう。
2005年9月9日の共同通信の報道によれば、国立がんセンターによる大規模な疫学調査によって、体格指数(BMI)が27以上の男性は、25未満の男性に比べて、大腸癌の発生率が1.4倍なのだそうです。10万人の日本人を対象にして、9年間追跡調査した結果、その期間中に約1000人の方が大腸癌になり、その結果を解析して、わかったそうです。一方、女性では、肥満と大腸癌のリスクは関係がなかったそうです。
さあ、学生の皆さん、あなた方は、医学生なのですから、この事実から、何を導き出すか、考えることが大切です。
まず、男性に対して、太らないように指導することが大切だ、ということを導き出す人もいるでしょう。
『太ると、大腸癌になるよ、怖いかったら太らないで。』という具合にですか。診察室でこんなことを言うのですか。趣味のいい医者とはいえませんね。おそらく、こんなことでやせようと思い患者さんは、いないのではないでしょうか。ただ単に夢見を悪くしているだけですね。
では、次に。
女性は、肥満と、大腸癌の発生には関係がないから、ふとってもいいよといいますか。これもほとんど、意味のないことですね。肥満は、大腸癌以外の生活習慣病といわれる病気のリスクファクターなのですから、太っても安心などという指導は、ありえませんよね。太った女性への慰めですか。やはり、趣味のいい医者とはいえませんね。
では、次。
太っていることと、大腸癌のリスクの上昇とが、なぜ、関連があるのか、理由がわからないから、信じられない人もいますね。疑ってかかるのは、大切なことです。たかが、10万人の調査の結果です。日本人は、それ以外に1億人以上もいるわけですから、その人たちも調べれば、結果は変わってくるかもしれませんね。しかし、統計学的に意味のある違いとされてことですから、この場では、これは、事実であると考えて、話を進めましょう。それが、科学というものです。(つまり、間違っているかもしれないけれども、手続きを踏んだ間違いであれば、あるところまでは、それは正しいとして、話を進めなければならないという、ルールです。)
次は。
BMI27以上の方は、大腸癌の検診をさらに、精密にする必要がある。という、結論を導き出す人もあるでしょう。あるいは、同じことのひっくり返しに過ぎませんが、BMI25未満の方は、大腸癌の検診を軽くする、ということです。
リスクが、1.4倍も異なるのですから、1.4倍高い人々に、よりお金を費やして、リスクの低い人にかけるお金を回す、というのが、確かに、社会経済学的な考え方ですね。
この調査結果を社会経済学的に利用するというのは、重要なことでしょう。もし、経済的に利用しないなら、国立の施設で調査したお金は、無駄ということになってしまいますから。遊びやご研究のための研究ではないはずですから。
このように、ひとつの調査結果をどのように利用するかということは、臨床医としての感性の問題かもしれません。意味のある臨床をしなければいけないということですね。
今日は、ここまでの話になります。
明日は、大腸内視鏡検査の実習です。
さあ、太っている学生は、大腸内視鏡検査の被験者となりますので、次の時間までに、お尻を洗ってくるように。(笑)
メモ
BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った値です。標準は、22で、25以上が肥満とされます。BMI 27は、身長165センチの場合、体重が、74キロとなります。
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目次
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1.なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
2. 大腸ポリープがありますよ、といわれたら
3. 大腸という言葉を使えば
4.大腸癌の話
5.22歳女性の肛門癌
6. 大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
7. 直腸カルチノイド
8. 直腸カルチノイドの怪
9. 潰瘍性大腸炎と大腸癌
10. クローン病
11.虚血性大腸炎
12.薬剤性腸炎
13.抗生物質による偽膜性腸炎
14.アメーバ腸炎
15.O-157腸炎
16.トラベラーズ腸炎
17.ノロウイルス腸炎
18.MRSA腸炎
19.骨盤炎、ダグラス窩膿瘍
20.放射線性腸炎
21.恐るべし、放射線治療後の膀胱
22.閉塞性腸炎
23.腸閉塞と例え話、あるいは、例え話の閉塞状況
24.急性虫垂炎の24歳の女性
25.シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
26.卵巣がんのダグラス氏窩転移
27.過敏性大腸症
28.偽性腸閉塞症
29.慢性便秘
30.巨大結腸症とS状結腸過長症
31.肛門病スペシャル
32.肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
33.内痔核 その対称性の乱れの話
34.痔と直腸癌
35.内痔核の話を続けましょう
36.痔と直腸癌 痔という病気
37.直腸異物
38.肛門管の話を続けましょう
39.内痔核の分類 Goligher分類
40.骨盤底筋群ということばが好きな理由
41.陰部神経のドグマ
42.陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
43.陰部神経潜時測定で何がわかったのか
44.肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
45.肛門を評価する(2)デフェコグラフィー (Defecography 排便造影)について
46.肛門の“8の字ダンス”
47.ポリープをとってほしかった
48.大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
49.別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法 ブラッドパッチEMR法 (blood patch EMR)の紹介
50.診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
51.打撃フォームを変えるにも等しいこと
52.クリニック
53.
54.消化器外科医の実力
55.セカンドオピニオン ブルース
56.セカンドオピニオン 異聞
57.不信感という、時代のキーワード
58.そう説明してくれればわかります
59.セカンドオピニオン 異聞 裏の裏
60.終わりにー 文系のための医学誌
61.
62.そのほかの疾患:包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
63.太ることと大腸癌
64.便潜血反応検査が陽性だったのですね
65.ものには旬というものがある